「知的財産報告書」の効果的活用法
〜ビジネス法務 2004年10月号より抜粋〜

2004年3月期の決算発表と前後して、複数の企業が研究開発や知的財産権について説明する「知的財産報告書」を発行している。知的財産報告書を発行すべきか否か、発行するとすれば、有価証券報告書や営業報告書等の開示資料とどのように異なり、どのような位置付けで取り組むべきものなのか、特に研究開発型企業の担当部門に新たな課題が投げかけられることとなっている。
 一方で、知的財産報告書に限られることではないか、IRを目的とする開示資料は発行それ自体を目的化するのではなく、投資家に対して有益な情報を提供するという本来の目的に対して十分な効果を発揮することこそが重要である。本稿では知的財産報告書の位置付けについて確認するとともに、その効果的な活用法について考えてみることにしたい。

1.「知的財産報告書」とは?
 〜 省略;経済産業省ホームページ「知的財産情報開示指針について」をご参照下さい

2.「知的財産報告書」の位置付け
 1) 上場企業の情報開示
 上場企業に求められる情報開示は、開示義務の有無とその根拠によって3つのカテゴリーに分類される。ここでは、上場企業の情報開示における知的財産報告書の位置づけについて確認しておこう。


図3.上場企業に求められる情報開示の分類
(中央経済社刊・「IRコミュニケーション戦略マニュアル」より抜粋)

まず、上場企業に最低限の義務として求められる開示が、証券取引法等によって定められた制度的開示である。制度的開示には、発行開示として有価証券届出書や目論見書、継続開示として有価証券報告書や半期報告書が含まれ、開示される内容は財務諸表などのハード情報が主体となっている。

同じく上場企業にとっては義務的な開示として、証券取引所等との契約によって定められる適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)がある。適時開示には、決算短信や四半期報告など定期的に行われる開示の他に、増資、大株主の変更、業績予想、大規模な設備投資など不定期に発生する重要情報も含まれる。適時開示もハード情報が中心になるが、業績予想など主観的評価の加わったソフト情報が含まれる場合もある。
 

これらの義務的な開示に対して、企業が制度的開示や適時開示のみでは不十分な情報を自主的に開示するのが、任意開示(ボランタリー・ディスクロージャー)である。任意開示は義務ではなく企業が自発的に行うものであり、投資家に対して適切な企業価値の評価を受けるために戦略的に行われるべき情報開示と位置づけられる。具体的には、ホームページのIRサイト、アニュアルレポート等が任意開示の手段として広く用いられている。

2) 上場企業にとっての知的財産報告書

情報開示の3つのカテゴリーのうち、知的財産報告書は義務的でない任意開示に該当する。従って、企業側にとっては報告書の発行自体を目的と捉えるのではなく、IRについての基本方針に則って、戦略的に望ましいと判断されるならば報告書を発行すればよいと考えるべきである。報告書の発行を考えるにあたっては、はじめから発行ありきではなく、大原則である開示の目的、つまり投資家が適切に企業価値を評価するために効果的な手段であるか否かを第一に検討すべきであることを強調しておきたい。
 開示の方法や開示内容についても必ずしも指針に拘る必要はなく、開示の目的、つまり投資家が適切に企業価値を評価するために最も効果的な手段を選択すればよい。しかしながら、知的財産という切り口からの企業情報の開示は投資家がこれまで殆ど目にすることのなかったものであり、投資家の立場からの比較対照の可能性等を考えると、少なくとも当面は指針を活用することが望ましいのではないだろうか。
 

3) 未上場企業の情報開示

 開示の5原則の一つとして、知的財産報告書は中小・ベンチャー企業の資金調達等にも活かされるべきであると定められている。ベンチャー企業にとって技術やビジネスアイデアなどの知的財産は唯一かつ最大の資産であることが多いため、資金調達の際に知的財産に関する情報開示が必要なのは当然であろう。
 

未上場のベンチャー企業等がベンチャーキャピタルや銀行から資金調達を行う場合、過去の決算資料等と併せて、事業計画書を提出することが一般的である。ベンチャーキャピタル等が指定する事業計画書の様式においては、技術や事業の優位性、競合他社との相違点等についての記載が求められることが通例であり、「知的財産」という定義がなされていなくても、知的財産に関連する情報が開示されることが通常である。また、特許や商標の出願状況についても、記載欄が設けられていることが少なくない。不特定多数の投資家を対象にする上場企業と異なり、未上場企業の資金調達時の調達先は金融機関や事業会社など特定の相手に限られ、情報開示にあたっては守秘義務を課すことが可能である。こうした事情もあって、ベンチャー企業等の資金調達時においては、上場企業以上に知的財産に関する情報が開示されるケースが少なくないといってよいだろう。 

4) 未上場企業にとっての知的財産報告書
 

上記の事情の一方で、投融資時の審査の実態を考えると、多くの金融機関において技術や知的財産権に関する審査体制が整っていない事情もあって、知的財産について開示された情報が企業評価に十分に活かしきれていないのが現状ではないかと思われる。かかる状況において金融機関から適正な評価を受けるためには、企業側が開示の方法に工夫を加えることも必要である。指定された様式に則って知的財産に関する情報を断片的に記述するだけでなく、経営戦略と個々の出願との整合性や収益に与え得る影響など、ソフト情報についても積極的に提示していくことが求められるのではないだろうか。かかる目的で開示を行う場合において、指針に示された項目が大いに参考になるものと思われる。
 

また、上場予定が具体化している企業にとっては、一般投資家に対する認知度を高めることが重要な経営課題となる。技術やノウハウに特徴を有する企業にとって、知的財産報告書は自社の特徴をわかりやすく説明する上で、効果的な手段になり得るものと考えられる。